リーフレットをつくる②
参考資料を整理する
じぶんにとっては大作だった建長寺のリーフレットが完成し、こんどは広済寺を紹介する番です。おてらの歴史、仏像、境内、坐禅会などの雰囲気が伝わるものに、仕上げていきます。拝観先や観光地などでいただいて来たたくさんのチラシを、参考にできたもの、参考にならなかったものに整理してみます。
参考にできたもの
★歴史、境内図、地図がはっきりしている。
★わかりやすい。表現が完結。
★英語での説明が入っている。
★英語の表現が自然。
★品がある。センスがいい。和の文化が伝わってくる。
参考にならなかったもの
★文章が流れてしまって、主述が定まらず、何を言っているのか理解できないもの。
★表現のなかに、どこか主張ばかりが感じられるもの。
★仏具、建物にご寄進された方の名前をいれてあるもの。
★写真があまりにも古いもの。
★英文が、内容としては通じるものではあるのだけれど、ネイティブっぽくないもの。単に逐語訳なもの。
★いいまわしが古文調で、若い世代には馴染めないもの。
★年代の表記が西暦と和暦とがごちゃごちゃ、漢数字とアラビア数字とがごちゃごちゃなもの。
★全体的に粗雑な印象がするもの。
★紙の質が悪いもの。
★ツルツルしすぎて、光って見えにくいもの。
チラシは絶対に正確か、どうか、というと、結構、「ん???」というものも少なくなかったというのが正直なところでしょうか。いまの時代にあった、どなたにでも、わかるものを目指すことにしました。
広済寺では、いいデザインをつくるために、おもしろく感じたものは、すぐに専用の箱に保存しています。日頃から、田舎の自然に触れたり、都会のおもしろいものをみたり、本を読んだり、遊んだり・・・いいものを見る目を養うことが大切だと感じています。
実際にリーフレットをつくったおてらさんにきいてみると、広告や出版系の制作代理店に依頼したところもあることがわかりました。歴史や由来を箇条書きするだけで、専門のライターさんが文章化してくれるのだそうです。イラストも全体のレイアウトもほぼ丸投げでできるというのですが・・・。わたくしとしては、多少、武骨であっても手作りな感じでいく方法を選ぶことにしました。
リーフレットをつくる①
心にのこるものとはなんだろう?
京都や鎌倉の大きなおてらさんをお参りすると受付でリーフレットをいただきます。本堂やお庭の写真、歴史などが書かれています。「広済寺でも作ろう!」とずっと思っていました。希望だけは10年以上続きました。これが非常に長かったような気が致します。印象に残ったチラシを手元にとっておくことはしても、いざつくるとなると動けませんでした。手にしたとき、「あ~なんてきれいなんだろう。ぜひ広済寺に行ってみたい。」となるようなものを作り出すには、いったい、なにが必要なんだろう?熟慮する日々が続きました。みなさんの心を動かすまでのモノをつくる力がなかったのだと思います。
外国人坐禅会でのミッション
それが大きく動いたのは、建長寺で開催されている外国人坐禅会のリーフレットづくりに携わったことでした。
これは2012年1月にできた初版です。いままでは、坐禅の本をコピーしたものを手渡ししていました。ところがバッグにグチャグチャにしまわれたり、コピーするだけでも毎回大変な手間です。残念だったのは、一生懸命に手をかけても、すぐに捨てられるのをみていることでした。しっかりしたもので、かつ、記念になるようなものができたと思います。2013年には若干の改訂を加え、現在、使われています。初版は500部。第2版は1000部でしたが、年間のローテンションが増えていますから、増刷することになりそうです。これは大変にありがたいことです。
印刷物というのは、完成してから、歩き出してくれると、ひとつの道筋をつくってくれます。坐禅の紹介がしっかりしてくると、こんどは般若心経も気になります。こちらもコピーでしたから、しっかりしたものにしたいということになりました。
内側はお経が書いてあります。鳴らしものとお経を読みだすタイミングがわかるようにしました。お経の係りは、ドラムとコンダクターと意訳しましたが、外国人の方にはわかりやすいと思います。イラストにしてみましたので、お経をよみながら、「日本人はこうやってお経をやるのか。。。」と理解していただけると思います。
コピーなら片面ですが、プリントにする場合、大きさが決まり、折るか折らないかの判断が出てきます。折れば、見開きがどちらからになるかが問題になり、かがみが必要になります。英語版・般若心経は左開きになるので、かがみはタイトルと三門の絵になりました。
後日談ですが、まだコピーを使っていた頃のこと。般若心経を読み終わったあと、参加されたアメリカ人の方から、「音節とお経が一致していないが、きちんと読むには何が大切なのか?」と言われました。じつはそのときは指摘の意味が分からなかったのです。この版を作っていたときも、お経の部分はそのままコピーを取り込んでいたのです。一字一句打ち込むのも大変なので、スルーしたわけです。いざ、校正の後半になって、念のため、チェックしてみると、「あるわ~あるわ~!」お経の区切りが違っています。コピーは古いもので原典は不明なのですが、そのものに問題があったのです。
完成までのプロセス
レイアウトをしていくと、文章がそれほどいらなかったりします。限られたスペースの中にどれだけ印象が残るものにできるかが結構、シリアスな作業になってきます。建長寺は4年間、修行でお世話になった場所ですから、どんな絵にしたらよいかなどイラストでは苦労しませんでした。英文のほうは、外国人坐禅会の主幹である藤尾さんが責任校正をしてくださいました。さらに藤尾さんのご縁でネイティブの方にも見ていただいているので、英文も自然な表現になりました。非常に完成度の高い作品に仕上がったと思います。
完成までの時間は、正味で2か月です。前述した般若心経の「ミスプリ事件?!」をはじめ、修正しなければならない問題が、ほかにもどんどんでてきます。しかし、デッドラインと目的がはっきりしていたので、順調に進みました。この大作を手掛けたことで、「広済寺のリーフレットも、同じ要領でなんとかいけるんじゃないだろうか?」と考えるようになったのです。
リーフレットをつくるために必要なことを挙げてみましょう。
①使う目的がはっきりしている。
例 お店や商品や紹介したい。
②いつから使うかがはっきりしている。
例 新年度からの新しいうごきのために、抜本的な周知やご案内が必要。
③何を載せたいか、新鮮でおいしいネタがあり、かつ、はっきりしている。
例 どんな写真やイラストを使いたいか、イメージがどんどんわいてくる。
ひとによってさまざまな差こそあれ、どの条件の下においても「はっきりしている」ことが重要なのです。なぜなら、それが「作りたい!」という強い意志につながるからです。制作中はかなりしんどい作業になることもあるので、「作りたい」という気持ちがブレないのは大切なことです。逆に、はっきりしない場合、「時を待つ!」。これも英断なのかもしれません。
ご先祖を調べる~墓誌をつくるまで④
なんだかんだと、家系図へ戒名、俗名、没年月日のプロットが完成しました。
「やあ~結構大変なものなんですね」
「山田さん。各データはこれで調査が完了しましたから、今度はこれを基にどんな墓碑にするかを考えていきますよ」
「え~!まだなんかやらなくちゃいけないの~」
「おうちによってさまざまなカタチがありますから、墓地に行って見てみましょうか」
「は。。。はい」
「山田さんは本家さんなられますから、最近できた新墓地の方よりも、旧墓地の方のほうが参考になると思います」
「墓誌って書いてあるのが上だったり、右の一行目だったり・・・違いがあるんですね」
「そう・・・」
「どれも戒名が上ですね。その下を「没年だけ」とするか「没年と俗名との二行」にするか、一番下は年齢。細かいところが違ってきますね。どれがいいのでしょうか」
「山田さんのおうちはご先祖さまの数が27と多いので、墓誌の両面を使っている井上さんのケースが参考になりそうですね。明治維新より前とそれより後とで両面にすれば、バランスもよさそうですね」
「うん。井上さんちが、うちといちばん近い気がする・・・」
書院に戻って作業を再開します。これまで作り上げた家系図のプロットを、こんどは没年の時系列に並べ替えてみます。エクセルのふきだしに、MS明朝で、戒名、没年月日、俗名、享年を縦に入れていきます。わたしが入力し、半面くらいできたところで印刷し、内容を山田さんがチェックしていきます。
「お~それらしくなってきましたね。きれいだ」
こうして山田家さんの墓誌の原稿があらかた完成しました。このあとは石屋さんと墓地全体の設計図から、どれくらいの大きさの墓誌になるかがが決まってから、山田さんご自身が動くことになります。墓地の工事の前に、御霊抜きの供養をし工事中の無事を祈り、完成後には開眼供養をおこないます。
「大きく前進できました。ありがとうございました」
「いいえ~。こちらこそ。」
ご先祖さまのことがわかって、山田さんは気持ちがとてもすっきりされたご様子でした。わたしのほうも、山田さんと一緒に過去帳を紐解いたことで、明治の廃仏毀釈のころには、おてらに住職がなく、近隣のおてらさんに兼務をお願いされていたことや、関東大震災や戦争でなくなった多くの尊い御霊があることがわかりました。こうした御霊が日の目をみると、後世の私たちもいろんな思いを抱き、歴史が見えてきます。とても大切なことだと考えています。
ご先祖を調べるうえで必要な資料は、おてらの過去帳とご自宅の位牌や石塔の刻みです。それを整理するツールにエクセルを使うと、便利なことがおわかりいただければ幸いに存じます。「ご先祖を調べる~墓誌をつくるまで」におつきあいをいただきありがとうございました。
ご先祖を調べる~墓誌をつくるまで③
一週間後、山田さんが九州から帰ってきました。
「わ~おいしい薩摩焼酎。ありがとうございます」
「なにがいいかわからなかったけど。和尚がコレ好きだって聞いてたから・・・」
さて。先祖さまのことも、いろんなことがわかってきました。だいぶクライマックスが近づいています。
「清書してみたのがこれです。これからが細かい作業になりますよ」
「お願いします」
これからの課題は以下の通りです。
①漢字の問題~旧字体はそのままでいくのか。新字体に改めるのか。漢和辞典にも載っていない異字体はそのままでいくのか。辞書で認められた旧字体で表記するのか。寿と壽など。エとヱなど。
②判明しない俗名はどうするか~通称しかない場合は通称を書くか、記載しないか。
③〇〇の妻と過去帳の通り記載するか。通称か戸籍名のどちらをとるかなど。
④墓誌におさめきれない場合~明治元年以前と以後に分けて、裏・表を使うか。
まだまだ作業は続きます。
ご先祖を調べる~墓誌をつくるまで②
家系図をつくる
翌日。山田さんがおてらにやってきました。お施主様にご用意いただくものは、ご自宅のご仏壇にあるお位牌や過去帳、墓石の写真などです。関係がありそうなものは、すべてご用意いただきます。
「位牌はこれで全部です」
と風呂敷をあけます。家系図のフリーハンドを取り出しながら、
「こんなのでいいんでしょうか」と山田さん。
「ほう。よく書けてますね」
家系図をいまの当主を基準に書いていただき、そこに戒名を載せていくのです。家系図がないと、いまの世代の方々とご先祖さまとの関係すらわからず、話が詰まってしまうからです。
ここから俗名と戒名を突き合わせていきます。どうげんが住職になってからのご葬儀をおつとめした方は、過去帳と位牌を確認すれば合致します。だんだん時代をさかのぼると作業は詰まってきます。
①年齢を書いていないことがある。
②女性の場合、「彦左衛門の妻」のみとあり名前がない。
③過去帳に載っていない。
④位牌で記された逝去日と数日ずれた日にちで過去帳に記載されている。
などです。
「う~ん。だいぶわかってきましたね」
「こんなに大変なんですね。もっと簡単に済むかと思っていたのに・・・」
「山田さんのおうちは、まだわかるほうですよ」
家系図を書いたうえで、名前と生きた時代はわかるのだけど、誰の子供なのかがわからない方がありました。
「清右ヱ門は誰の子なんだろう」
「年代で推測してもはっきりしませんね。役所に抹消戸籍がありますから、調べてみるとよいでしょう。明治10年くらいまでなら、追っかけられるはずです。」
「きょうは雪で畑ができないし、これから役所に行ってきますよ」
「私のほうは、きのう、きょうとわかったことを、エクセルで清書しておきますね」
山田さんは明日から九州へ出張なので、来週また作業を続けることになりました
ご先祖を調べる~墓誌をつくるまで①
朝。お檀家の山田さんがお見えになりました。90歳だったお母さんが亡くなったのがおととしのこと。一緒に住んでいたおじさんの50回忌や若くして亡くなったお姉さんの33回忌がまもなく到来するのにあわせ、墓地の改修工事を行ないます。日程のことは伺っておりましたが、きょうからは詳細の打合せになります。
「3月頃、工事でしたよね」
「ええ。土葬でおさめたほうも、本墓地へまとめたいと思っているんです」
この地域は土葬の習慣が長かったので、火葬場ができてもしばらくは土葬か火葬か選んでいた時期がありました。昭和50年代半ば火葬が普及してきたために、墓地整理がなかなか進まなかったという時代背景があります。山田さんのおうちも、土葬のものはそのままで、最近亡くなったご身内はカロートのある新墓地となり、2か所墓地があります。
「それでね」
「・・・」
「全面改修になると、古いほうの石塔を持って来たり、外柵もなおすでしょう。墓誌がなかったので、作ることにしたんです」
「ほう・・・」
「石屋さんから、先祖を調べてくださいって言われてね。どうしたらいいもんかと・・・」
墓誌にはご先祖さまのお戒名、没年、俗名を刻みます。末永く残る記念碑です。これをつくるために原稿が必要になるのです。
「まず山田さんを基準とした家系図を書いてきてください。書式は自由で結構です。それに個々のお戒名と没年を載せていきます。おてらの過去帳を調べながら、清書していきます。こうしてお目にかかっての打合せがだいたい3回くらい、わたしが仕上げていく時間を考え、一か月くらいいただけますか」
「やってみます!」
山田さんはほっとしたようすで帰っていきました。
幹事のしごと~⑧決算
~お預かりしたお金の結果をだします~
繰越分に会費、お祝い金。他に収入があれば加えていきます。お店への支払いをし、残金を次回の担当へ引き継ぎます。精算はせめて翌日までの記憶が確かなうちに行ないます。決算は全体にきちんと説明ができる収支にすることは、申し上げるまでもありません。「任せているからいいよ~」と言われていても、とっさのときに対応できるようにしたいものです。
以上。「幹事のしごと」でした。全8回のお話でした。最後までおつきあいいただきまして、ありがとうございました。